こんにちは! 一橋大学経済学部2年ののっぽくんです!
2024年11月22日(金)から11月24日(日)にかけて、第55回一橋祭が開催されました。
1月から8月頃にかけて、委員会が一橋祭当日に行った企画や取り組みについて「密着!一橋祭」と称して連載形式で紹介しております。
一橋祭を振り返りたいあなた、一橋祭運営委員会の普段の取り組みに興味のあるあなたは必見です!
前回はvol.1「OB・大学教員の講演編」。
一橋OBでもある日本製鉄の橋本会長にご登壇いただいた卒業生講演会や、一橋教員が日本の歴史教育について議論した対談企画についてご紹介しました。
前回の記事はこちらから!(https://ikkyosai.com/magazine/wordpress/archives/1384)
vol.2の今回は「一橋での学びpart1-公開講義-」です!
今回は、一橋祭の恒例企画「公開講義」特集です!
本企画は各学部の教員が一橋祭で実際に講義を行うことで、来場者の方々に一橋での学びを体験してもらうことのできる企画です。
毎年受験生をはじめとした多くの方にご来場いただいている大好評企画です!
昨年は「五学部公開講義-広大なことばの世界へ-」と題して、一橋大学の全五学部、商学部・経済学部・法学部・社会学部・ソーシャル・データサイエンス学部の教員が各々の見地から「ことば」という共通のテーマにちなんだ講義を行いました。
本記事では、各講義の概要についてご紹介します。
最初の講義は商学部の松井剛先生による「市場を創ることばの力:商学部で解き明かすコミュニケーションの可能性」です。
松井先生はマーケティングや文化社会学を研究されており、ことばと市場の関係についてお話しになりました。講義の中ではモノを売る(市場を作る)際に、「ことば」がどのように消費者と市場を繋ぐのかを実際の例を交えながら説明してくださいました。講義内ではさまざまな面白い例を紹介してくださっていたのですが、ここでは「加齢臭」の例について紹介します。
加齢臭という言葉がいつから存在するか皆さんはご存じですか? この言葉は1999年に資生堂の研究員によって命名されたものなのです。ではそれ以前に加齢臭は存在しなかったのでしょうか? もちろんそのような訳はなく、「加齢臭」という言葉が存在する前から「いま『加齢臭』と呼ばれる匂いの存在」はありました。「加齢臭」と命名したことにより、人々が漠然と抱えていた不快感を言葉でラベリングし、解決すべき問題に昇華させたのです。今では加齢臭を解決するような商品は数多くありますが、全て加齢臭という言葉なしでは誕生していなかったでしょう。
先生はこのような例を通して、「ことばは市場を創ることができる」ということを伝えてくださいました。
2番目の講義は経済学部の竹内幹先生による「意思決定と言葉:「ものは言いよう」か」です。
竹内先生は行動経済学・実験経済学を研究されており、意思決定とことばの関係性についてご講義いただきました。行動経済学とは心理学のデータや知識を用いて経済事象について分析する学問です。経済学では、基本的に人間が合理的に選択をすることを前提に考えますが、行動経済学では人間は現実に則し、必ずしも合理的な選択をする訳ではないという前提で経済学の事象を扱います。本講義では、同じ情報でも伝える手法によって人々の選択が変わるというフレーミング効果を中心に、言葉がどのように意思決定に影響するかを解説してくださいました。
例として、「赤身90%、脂身10%の牛ひき肉」を「10%が脂身」と宣伝する場合と「90%が赤身」と宣伝する場合では、後者の方が品質がよさそうに見えることや、病気の患者に「高リスクかどうか」を伝えるか「低リスクかどうか」で伝えるかでは、後者の方が良く受け取られることなどをデータによって明らかにし「ものは言いよう」である、ということを伝えてくださいました。
情報源が信用されていないと同じ言葉でも伝わり方が変わる、ということも今話題のフェイクニュースと絡めてご紹介して下さり、時々会場全体が笑いに包まれるなど、わかりやすく楽しみやすいご講演となりました。
3番目の講義はソーシャル・データサイエンス学部の小町守先生による「ことばがつなぐソーシャル・データサイエンス」です。
小町先生は計算言語学や自然言語処理を研究されています。自然言語処理とは私たちが普段使っている言語(自然言語)を機械が処理することで、ChatGPTなどによく利用されている技術の一つです。
小町先生によれば、この技術では、単語やその意味となる概念を数値の羅列(ベクトルと言います)として表現します。数値の特徴を分析することで、似た特徴を持つベクトル同士を「似た意味の単語」として機械が認識し、言語を正確に処理できるようになっていくという仕組みです。
このような方法の応用により、単語の意味の移り変わりも理解できます。例として、「broadcast」という単語は現在では「テレビやラジオの放送」として理解されていますが、19世紀ごろには「種を広く撒くこと」として使われていました。「broad(広い)」「cast(投げる)」の複合語として、時代とともに用法が変遷したのかもしれません。
ベクトルは単なる数字ではなく、視覚的な表現にも可能な数列です。小町先生はベクトルを用いて、「broadcast」が19世紀ごろは「seed(種)」「scatter(ばらまく)」と近い位置にあったこと(すなわち、似たような意味で使われたこと)、現在では「bbc」「radio」「television」などと近い位置にあるということを視覚的に示し、意味の移り変わりを説明してくださいました。
講義の終盤では、ChatGPTなどの便利な生成AIの社会的なインパクトやその問題点など、生成AIが急速に発展している現在に必要な知識をお話ししていただき、我々の生活にも身近な形でデータサイエンスについて知ることのできるご講演となりました。
4番目の講義は法学部の江藤祥平先生による「法律という言語を話してみよう!」です。
江藤先生は法律学を研究されています。法律学とはその名の通り、法律を研究対象とし、その解釈や適用を研究する学問です。法の解釈はまさに「ことば」の解釈に他なりません。江藤先生の講義では先生ご自身のゼミの学生を壇上に招き、憲法の解釈が必要になる場面を実演していただきました。
(本講義の詳細な内容につきましては、関係者の了承を得ていないため割愛いたします)
最後となる、5番目の講義は社会学部の寺尾智史先生による「ことばとは結局、誰のものか:コミュニケーション最終分解者の立場から考えることばの領分」です。
寺尾先生は言語社会学やコミュニケーション論を研究されています。細分化された特定の言語などを分析対象とするミクロな視点を持つ言語学と、人間同士のつながりを広く見るマクロな視点を持つ社会学の両方の視点から先生のご自身の経験をもとにことばの世界に迫りました。
はじめに、言語や方言が異なるものへと移り変わる境界に着目し、ポルトガル語や消滅の危機にあるミランダ語などの言語について、聖書以来のベストセラー「ドン・キホーテ」にも触れながら解説していただきました。
また、グローバリズムや生成AIの進展により、特定の言語でコミュニケーションを行うまとまりが曖昧になっていることが、マイノリティ言語の消滅につながる可能性についても示唆していました。
講演の最後には、声・ことばは「自分のからだの延長」であることと、特にマイノリティに対する配慮・尊重を求めるメッセージを届けてくださいました。
言語学について非常に示唆に富む内容で、本企画全体のテーマである「ことば」の最後にふさわしいご講演でした。
いかがだったでしょうか? 「ことば」と言っても、学部によってまるで異なる切り口から講義が展開されており、学部間の差異がわかりやすかったのではないかと思います。学生や地域住民の方々など幅広い皆さんにご好評をいただいた企画でした!
2025年の一橋祭でも「公開講義」が行われる予定です。一橋の学びや各学部でどのような学問を扱っているのかに興味のあるみなさんは、ぜひ今年の一橋祭に足を運んでみてください!
次回はvol.3「麻雀企画」編
です! 一橋祭の人気恒例企画となっている麻雀大会やプロ雀士をお呼びした麻雀講演会の様子をご紹介します!
本シリーズの他の投稿も気になる方は以下のリンクから!
https://ikkyosai.com/magazine/wordpress/archives/category/密着!一橋祭
最後までお読みいただきありがとうございました! 次回もお楽しみに!